個展開催中にお客さんからきた質問を思い返す。
“なぜ、冬の波を撮っているんですか?”
なぜ、冬の海を撮るのだろう。
今回、展示した作品の手法はシャッタースピードを通常設定するよりも意図的に遅くして撮った写真です。
過去、海を訪れて、海、砂浜、空がわかりやすく配置された写真も撮ったことはあったが、特にこれと惹かれるものはなかった。撮っている時はいい画な気がしていっぱい撮ったが、いざ現像して見るとどこかでみたことがあるようなものばかりで面白みを感じなかった。
自分が今までに見たことないような写真を撮りたい。いかにも体を成した、まとまりのいいものが嫌だった。
今回展示した作品は、その試行錯誤の中から生まれてきたものだ。
スローシャッターで冬の海を撮ったらどうなるだろうか。
素朴な、そこから始まった。
冬の日本海は気圧配置の関係で海が荒れ、波が高くなる日が多い。若い頃、友人たちと青春18切符で山陰線・竹野駅あたりを訪れた際も冬の天気で海が荒れていた。海岸線を電車が進んでいると、4、5mの波が車道まで打ちつけるのを見て恐怖した。そのとき、電車の中で近くに座っていた地元のおばちゃんが荒天模様を指し「これが利休鼠の色やで」と教えてくれた。利休鼠…真冬の日本海の荒れぶり、衝撃はその言葉と共に強く記憶に残っている。
つづく